ドア・ガッチャン
   噺歌集Xより抜粋(’89.6.19. 愛知厚生年金会館)

この間、ハワイへレコーディグに行ってきたんです。ハワイ、好きですね、芸能人は。ホノルルなんて町に行ったら芸能人がてんこもりでいますからね(笑)。もう、大変な騒ぎですからね。われわれが行きましたのはマウイ島。ホノルルのありますオアフ島から数えて、やや南側に、一つ、二つ下がった島なんですね。マウイ島。高見山の出身地ですね。マウイ島。いい島ですよ。貿易風が、いつも吹いてる。だから、湿気が意外にないんですね。湿気がないからスタジオを作るにも、ハワイの中では最適だし、楽器なんかも保存しやすい状態にあるんですね。そして、古いホノルルという町を知っている人なんかはね、「二十年前のホノルルだ」というふうに評価するぐらい田舎なんですね。

ホノルルっていうと日本語で通じます。何言っても日本語で通じるんです。お店入って、うっかり英語でなんか頼もうもんなら、「日本語でどうぞ」なんて言われちゃう。マウイ島はそういうわけにはいきません。やっぱり英語です。ですから、辛くもあり、楽しくもあるんですがね。

私どもの仲間たち。みんな教養人が揃っております。英語はみんな得意でございます。特に得意なメンバーが大変な騒ぎを起こしました。誰とは申しません。これは、本人の名誉のために名前は伏せておきます。あるパーカッション奏者(笑)、とだけお伝えしておきましょう。私どもが泊まりましたホテルというのは、いわゆるホテルといっても観光客相手のホテルではなく、つまりリゾートホテル。向こうのリゾートっていうのは、日本人みたいにリゾート地へ行って、一日、二日過ごして「ああ、こういうところか」なんてね、思いながら、あの...。(宅間にスポット当たる、笑)

よしなさいって。私が匿名希望で言っているわけでございますから。照明さんが暴露してしまいました。宅間君でございますけど。

日本人みたいにね、いわゆる、リゾート地と呼ばれるところへ一日二日出かけて行って、そこの空気を吸って、しょんべんして帰ってくる。こういうのはリゾートと呼ばないわけですね。アメリカのリゾートというのは、向こうはお休みをたくさん取ることが義務付けられていますから、法律でね。お休みの間中、家族連れでどっかへ出かけるわけです。で、一週間、二週間、長い人ですと一ヵ月、二ヵ月の長期のお休みをとって、のんびりと休暇を楽しむんですね。

そういう人たちの専用のホテル、コンドミニアムホテルというやつですね。コンドミニアム。自炊ができるホテルです。そこへ行きましてね、私どもみんな、部屋分かれいたしましてね。食事はみんなで集まったりもしますけどね。飲んだりする時は。みんな一緒に僕の部屋で集まるんですけど。それぞれ、ばらけた部屋にいたんです。「それじゃ、集合」って集合かけたら、パーカッション奏者のある仲間が、部屋にキーを入れたままドアを閉めた。ドアは自動ロックというやつね。いったん閉めたら、外から鍵なしでは開かないんです。で、鍵を中に入れたまま表に出てしまった。私の弟の匿名希望のS君というのが(笑)いるわけですが。このS君が英語をしゃべりますんでね、匿名希望のT君がS君のところへ頼みに行ったんですね。

「(宅間の口調で)あぁ、繁理よぉ、お前よぉ」(笑)
これで、すぐ分かったりなんかしますが。
「繁理、お前よぉ、ちょっと頼んでくれよぉ。お前よぉ。鍵をよぉ、中に入れてよぉ、閉めちゃったからよぉ、中、へぇれねんだよぉ(笑)。弱っちゃうじゃん」(笑)

とかなんとか言うわけですね(笑)。で、繁理はB型です。B型というのはご承知のように、気が向いたら、あんなに優しい血液型はございません。本当に優しい。ここまでどうしてしなければいけないんだろうっていうくらい優しい。気が向かなきゃ、こんなにヤな奴はいないわけです(笑)。それで、気が向かなかったんですね。

「そんなことくらい、自分で言え」
「だって、英語が」
「そのくらいのこと自分で言えないようじゃ、ここでは生きていけないぞ、この野郎」

そこでT君は自分で出かけたんです。私どものスタッフの若い奴に、ちょうど僕が持って行っておりました8ミリビデオカメラ、これを持たせまして、宅間の後ろについて行かせたんです(笑)。もしかしたら、これは後で笑えるんじゃないか。私の予想はピッタリ当たったわけでございます。もう、このフィルムをみなさんに見せたいくらいでございます。

  

宅間君の素晴らしい英語。英語は文法ではない、ということを彼がはっきり示しました。すごい英語です。われわれ教養人には、なかなか思いつかない英語です。
「ミー、アウト(笑)、キー、イン(笑)。マイドア、ガッチャン」(爆笑、拍手)

通じるんでございますね(笑)。
「ミー、アウト。キー、イン。ドア、ガッチャン。プリーズ、オープン」
これで通じるんです(笑)。気取って、鼻にかかってしゃべっている奴はろくなもんじゃないんです。これで通じるんです。宅間君はビデオカメラに向かいまして、偉そうに胸張ってるんです。
「ま、私の言ってることが通じていれば、ま、これから係員がここへやって来るわけですね。はい、じゃ、ちょっと待ちたいと思います」

もうレポーターになりきってるんです(笑)。もう難関は通過したと思ったんです。こういうところに落とし穴があるんです。やがて、こんな大きなお父さんが現れましてね。白髪のお父さんが現れましてね。そしたら、宅間君は最高でございますね。自分の英語が通じたと思ってね。
「オー、サンキュー、サンキュー。カモン、カモン、サンキュー」(笑)
いろんなこと言ってるわけですね。
「エクスキューズ、ミー。オー、サンキュー」
それしか言わないんですけど。

ドアをガチャーンと開けてもらったらば、それが違う部屋だった(笑)。その画面の中での、宅間君のあわてっぷり。それはもう、ほほえましいものがございました。
「おぉー、俺の部屋じゃねえ。あれ?」
もうここで、彼の冷静さがすっかりなくなってるんです。
「あれ? どうしたんだ。あれ? あれ? どうした? 俺の部屋じゃ、あれ? 433。あれ? 333。あれ? あれ? あれ?」

おじさんは、もうすっかり去っていくわけです(笑)。呼び止めて、
「エクス、キューズミー。エクス、キューズミー。えー、ちょっと待って。ちょっと待って。あの、ちょっとすいません。ちょっとすいません。えーと、えーと」
外人に向かって、
「ここ何階だっけ?」(爆笑)

エレベーターを降りて、右に行かなければいけないところを左に行ってしまったんです、彼はね。違う部屋を開けてもらってんです。
「そうか。この階でいいんだ。向こう側だ」
と気が付きまして、画面の中で、彼が大きなお父さんを連れて向こうへ去っていきます。エレベーターの前を通過してる。カメラマンだけがそこに立ってる。二人がエレベーターホールを通過しようとする頃に、あきれたんでしょうね、外人も。思わず大きな声でこう言いました。
「オー、ユー、バ〜カタ〜レェ」(爆笑)

情けないわ。外人に日本語で罵られて(笑)。で、本人は、
「ハハハハハー。バ〜カタ〜レ、イワレテシマイマシター」(笑)
本当にすばらしい仲間とともにやってきたわけでございます。

次ページ