アイム、オールライト!
   噺歌集Xより抜粋(’92.2.22. 仙台サンプラザ)

僕が生まれて初めて事故をやったのは、ロサンジェルスだったんですけどもね(笑)。いや、本当ですよ。威張ることもないですけどね。日産の280Z、トゥエイティ・ズィーってやつですね。それに乗って、友達と二人でディズニーランドに行く途中だったんです。男同士で、気持ち悪い。

あの、こういうことありません?オートマチック車、ほとんどがそうだと思いますけど、乗っててちょっと止まろうかなっていう時に、ドライビングに入れたまま、ブレーキで止まっている状態。あれ、気をつけた方がいいですよ。同乗者と話に夢中になってると、ブレーキがちょっとゆるんでる場合がある。ヌルヌルヌルヌルッと走ってる場合がある。それをやったんです。

フリーウェイ、ま、高速道路ですね、ここで、ちょっとした自然渋滞があったんです。ものの一、二分、じっとそこに止まっておく覚悟があれば、前はスッと空く程度の自然渋滞です。今から十五年近く前のことですから、あんまり渋滞もなかった。ユルユルユルユルと動いて行って、トンッ。ぶつけたんです。

はっ(息をのむ)。前を見たらポルシェだった(笑)。俺、死んだと思った。こりゃ駄目だ。
「アイム ソ〜リー、アイム ソ〜リー。ハーイ! ハウ デュゥ〜 ドゥ?」とか(笑)
「アイム ファイン、サンキュー」とかいろんなこと言って。とにかく「アイム ソ〜リー。アイム ソ〜リー」。謝るだけですよ。

そしたら、ポルシェに乗ってたおっちゃん、ちょうど年の頃なら、今の僕くらいですよ。レイバンのサングラス、お分かりになりますね、あのなす形の、レイバンのサングラス。あのマッカーサーのしてた。マッカーサーって余計分からないって(笑)。

で、レイバンのサングラスが、サイドブレーキをキュッてあげてね(笑)、出てきた。僕の顔を見ない。で、どうするかと思ったらね、ヒューッと車の後ろへ回って、バンパーをスーッと手で撫でて、それから初めて僕を振り返った。
「OK. I'm all light. D'ont worry. Be careful.」
ドンッ。シューゥー。(車に乗って走り去る真似)すてき!

男は、ああでなきゃ。よくいるでしょう。どこが傷なんですかって聞きたくなるようなやつを、「困るんですわ〜」(笑)。そういう奴より、よっぽど男らしいって。格好いいですよ。ま、そういうのは余裕があるからできるんだろうけど、なかなかそうはいかないですもんね。

「まさしが事故をやった、事故をやった」って、一緒にいた奴がみんなに大げさに言いふらすもんで、日本に帰ってきたら、スタッフが心配してベンツを買ってくれた。ベンツですよ、ベンツ。きれーなベンツ。ぶつかっても死なないベンツ。そりゃあまあ、速度によるけれども。二百キロでぶつかりゃ、どんな車に乗ってたって死にますけどね。

それを僕の恩師にも見せびらかしてね。
「先生、ベンツ買ったんだよ」
「見せに来い」
「わかりました」

それで走ってる最中に、ほら、よくありません?あの信号、もう黄色になるな。黄色は止まれですよ。黄色は止まれです。この間、「注意して進め」って言った奴がいたけど、大丈夫ですね(笑)。黄色は止まれです。ただし、やみくもに止まればいいってもんじゃない。そこがファジーな空間なんです。信号機っていうのは、実は、もうずっと早くからファジーなんです。ファジー発想。

止まればいいってもんじゃない。車の流れがある。やみくもに止まれば、後ろから追突される。ですから、そこのところはお巡りさんもうるさいこと言わないでしょ。黄色に関して言えば。「あっ。黄色で突っ込んだ。逮捕ー」、なんてそういうことないでしょ。そういうもんなんです。流れってもんがあるから、それはお巡りさんも分かってる。

止まろうかな、止まれると分かったら止まるべきなんです。ただ、後ろが止まれるかどうか、これ気をつけて下さいね。自分だけ止まればいいってもんじゃありません。先頭車両にたった時でも、それから二番目の車両の時でも、必ず車間距離を空けるようにして止まりましょう。後ろから突っ込んでくるなーと思ったら、ちょっと前に出てやればいいんです。十五センチ前に出てやるだけで、追突事故は本当に防げる場合があるんです。

その時も、僕は後ろを見て、「止まれるかな」、キュキュキュキュキュとブレーキを踏んだ。止まるよと何度も教えてキューッとゆっくり止まった。念のために、十五センチ前にビョッと出たんです。止まった位置から。悪いけど停止線はちょっと越えました。そしたら後ろでキュキュキュキュキューッて止まった。「ああよかったな」、と思ったらコンッときたんです(笑)。これ、僕が十五センチ後ろにいたら大事故になってますよ。そういうもんなんです、追突っていうのは。その代わり防げるんです。コンッときた。

きたきた、なんて思ってたら、後ろの方で大学生と覚しき男の子が4人、バラバラバラバラーッで僕のとこに来て、
「どうもすいません。どうもすいません。どうもすいません。どうもすいません」(笑)

もう、ここしかない(笑、拍手)。私はどうしたかというと、メガネをはずし、ダッシュボードからレイバンを出し(笑)、かけてドアを開け、チャッ。彼らの顔を見ない。静かに車の背後にまわり、バンパーを一度、手でスーッと撫でた後で、初めて彼らを振り返る。
「OK(笑)! 俺は大丈夫だ。気をつけて行けよ。くれぐれもな、注意して行けよ」
ドンッ(車に乗り込む真似)。信号、赤のまんま(笑、拍手)。「ウー」って言ってるの、ハンドル持ったまんま。

「格好よくないー。きまらねーなー」だって。信号変わって、シューンッて出て行ったら、次の信号も赤(笑)。クックックッ…。今度は脇にきてみんなで(大学生四人が車の中から頭を下げて謝っている真似、笑)。その信号が青になったら、その次の信号もまた赤で、今度は左側に来てみんなで(大学生四人が車の中から頭を下げて謝っている真似、笑)。俺、格好悪かったから、三つ目の信号で左に隠れたもん(笑)。「あいつらいなくなったかなー」なんて。なんで、ぶつけられた俺が気にしなきゃいけないんだ。

もう先生に思いっきりばかにされて
「お前、似合わないんだから、格好つけちゃだめだよ」
なんて怒られてね。
「本当ですよね」
って言って帰りに見たら、バンパーが思いっきりへこんでやんの(爆笑)。ま、究極の人生を見た思いがしますよ。

冗談じゃなくって、本当にくれぐれも気をつけて。交通事故っていうのはどこにでも潜んでますからね。本当に車を運転していらっしゃる方、安全運転をお願いしますよ。それから、歩行者の方はくれぐれも巻き込まれないように。ボーッとして歩いてないでくださいね。危ない人いっぱいいますからね。本当にこれだけはこころからのお願いです。

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