学生の頃のお話

このページではさだまさしが学生時代の頃を語る話題を集めてみました。彼は小学生の時にバイオリンで九州の大会で入賞した実力を買われバイオリンの修行のために一人上京し、中学からは東京で過ごしています。その頃のお話です。

モシモシ、今東京駅
   噺歌集Tより抜粋(’78.5.20. 福岡)

故郷へ帰るのってとっても楽しかったんですよ。ぼくね、長崎駅へ着くでしょ、それですぐ電話するんですよ、家へ。
「モシモシ!」なんていうでしょッ。そうするとおふくろが出てきて
「モシモシ、あら! あんた、どこにいるの?」なんて聞く。だから、
「ウン、いま東京駅。これから乗るから」なんて、ぼくいうわけね。
「そう、じゃあ明日の昼前ね」
「そう、そう、明日の十時半頃着くから...」
なんていってガチャンと切るでしょ。でね、その足で急いで走って家まで帰るわけです(笑)。

それでね、玄関の戸に手をかけながら、「いきなりガラッと開けたら、向こうは驚くだろうな」って思いながら開ける! 向こうは驚く!(笑) これが気持ち良くってねえ。ぼく驚かせるの大好きだから驚く顔見て喜ぶわけですよ。そうするとね、向こうも、ホラ、親としては迷惑だと思っても製作担当責任者だから義理立てしてね、喜ぶふりをするんですよ。
「オーッ、よく帰ってきたなァー」
なんて(笑)。内心はどう思ってるか知らないけどね。

そのうち向こうも驚かされることに慣れてきたのね。で、向こうも手を考えた。うちの親父なんかとくに役者なもんだから、「もうそろそろ帰ってくるぞ」なんて頃になるとね、ぼくの下宿の方に毎晩電話をしやがる(笑)。でね、下宿のおばさんが「アラッ、今朝出ましたよ」なんかいおうものなら、
「オイッ、雅志は明日帰ってくるぞ!」
なんて手ぐすね引いて待ってるわけですよ。

こっちはそうとは知らないものだから、いつもの手がまだ効くと思ってね、長崎駅から電話するんです。
「モシモシ、いま東京駅!」(笑)
それでまた、息せき切って走って帰るわけですよ。で、玄関の前に立って、ドキドキしながら構える。「いるかなァ、いねェかなァ...」。だけど親父はもう知ってるからね、悔しいね、このへんが(笑)。だから、ぼくの影が見えると向こうは向こうで構えてるわけです。

ぼくはぼくで「驚くだろうなァ」ってニヤニヤしながら戸に手をかけようとした途端、中からガラッと開いてね、
「お帰りィ!」(爆笑)

こんな悔しいこと、なんども味わされたなあ。もう風呂が湧かしてあったりしてね。「ああ家はいいなあ」、これがたまらないんですね。

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