エレクトーン、「ハイ!」攻撃
   噺歌集Xより抜粋(’87.12.18. 東京厚生年金会館)

「秋桜」というのは、山口百恵さんのために作った歌なんですけれども、百恵ちゃんがこの歌を歌ってくれたのは、今から十年前だと言ったら驚かれる方も多いかと思います。もうあれから十年経ったんですね。でも、百恵ちゃんが本当に大事に大事に、この歌を歌ってくれたお陰で、いまだに、この歌を時々思い出したように聞いてくださる方、大事にしてくださる方があって、本当に嬉しい限りです。

ですから、時々、いろんな所で取り上げられますね。結婚式場で、花束贈呈の時に、なぜかエレクトーンのお姉さんが、いきなりこれを弾くっていうケースがありますね。僕なんか、人の結婚式にお呼ばれしていて、いきなり、お姉さんがこれ弾いたりなんかすると、一瞬うろたえたりなんかしましてね。
「タラリラリーチャラリラリー、チャラリラリー」
どっかで聴いたことあんな(笑)。しばらく考えたりなんかしましてね。

この間、NHKでも取り上げていたそうです。この「秋桜」の歌詞を。なんか、健康の番組だったらしいんですけどね。歌詞がダーッと書いてある。それで、所々に赤線が引いてあるんですって。

「この頃涙脆くなった」
って赤線がこう引いてある。
「何度も同じ話くりかえす」
って赤線が引いてある。
「突然涙こぼし」
ってこう赤線が引いてある。その日の特集が、「ボケ」だったっていう笑えない話(笑)。

いや、笑えないですよこれは。笑えないですよ、失礼な話じゃないですか、だって。何も、私の歌詞を「ボケ」に持ってくることはないじゃないですか。そりゃ、私はボケですよ、確かに。カスみたいなもんですけど。だけどね、ずいぶんな話だなと思いました。

まあ「秋桜」って言えば人の結婚式に呼ばれるようになりましたよ、最近。「秋桜」や「関白宣言」なんかがあるから。フフ。昔は、誰も呼ばない。そりゃそうです。グレープ時代の代表作といえば、フフフ、一に「精霊流し」、二に「無縁坂」、三に「縁切寺」(笑)。こんなもの歌われた日にはですね、もう全部終わっちゃいますね、はい。あの頃は歌う青雲香と呼ばれてましたけどね(笑)。

でも、「秋桜」なんて、歌いたくないですよ。だって、それまで明るい披露宴なのに、僕が歌った瞬間に、暗い披露宴に変わっていくんです。まず、新婦の友達から泣き始めますね。新婦より先にいくんです。「ウグー」いきなりいくんですね。あれが怖い。

で、この間、友人に呼ばれましてね、
「佐田、お前来てくれんだろ、結婚式」
「行くよ、歌うか?」
「いや歌わなくていい。しゃべりだけで」(笑)

いやな呼ばれ方しまして(笑)。いやな呼ばれ方。で、僕は歌わなくていいと思うから、酒は飲むわ、ご飯は食べるわね。そりゃ、歌うってことになると酔うわけにはいかない、お腹一杯にするわけにはいかないですからね。で、酔っぱらうわ、ご飯は食べるわ、もう、ラッキーってなもんですね。もう、グエーップの世界ですね。

でね、最近は、お色直しってのを何度もやるんですね、あれ。まあ、贅沢な話ですよ。そりゃ、一生に一回(間、笑)ですから。今の間は(笑、拍手)、なんでしょうね(笑)。今の間、自分でも、なんだか分からないんですけどね。一生に一回。時々、テープでお祝いのコメントを頼まれますけどね、「今回、行けなくて」って言っちゃいけないそうですけど。じゃあ、次回があるのかって、ハハハハハ(笑)。「今回」だけは使うなって言われたんですけど。

最近は、お色直しが多くて、よしゃあいいのに、男までお色直しするんですよ。見たかないですよ。そりゃあ、新婦のお色直し、きれいきれいにして出てくるんですから、見てやってもいいですけれどもね。向こうは、それを見せるためにいろいろお金遣ってるわけですから。そりゃ、見てあげてもいいですよ。これだけの料理が身代わりだと思えば(笑)見てあげてもいい。男は見たかないですよ。

で、そいつなんかすごいの。ピンクのタキシード来て出てきやがってね、もうめまいしましたよ、私は。しかもね、膝から下、ドライアイスに包まれてるんですよ。ほとんど、きんと雲に乗った猪八戒がね(笑)、なんか、ホント、化けて出てきた、そういう世界ですけどね。あれは怖かったなー。で、手に如意棒を持って来ましてですね、入ってくるなり、テーブルに火をつけて歩いてるんですよ(爆笑)。とんでもねえ奴だと思いましたけどね。

それで、そのお色直しに出かけた時に、司会者が、
「それでは皆様ごゆっくりとご歓談下さいませ」
ご歓談しようかなと思ったらば、司会者がゴキブリのようにテーブルの間を、ササササッとこう這ってですね、僕の脇へ来て、ラブラドールレトリバーみたいに(笑)、ぴたりっとここへ座るんです。キャバレーのボーイみたいに。で、

「さださん」
「何?」
「いや、親類の人がですね、せっかく、さだまさしが来てるんだから、一曲ぐらいって言ってるんですよ。一曲お願いできませんか?」
「だろー(笑)。だから俺、グエーップ(笑)。だから俺、言ったんだよ、ギター持って行こうかって。あいつがいらないって言うから、持ってこなかったんだもん。ギターありますか?」
「キダーないんですよ」
「ギターなくちゃ、まさか、こうやって歌うわけにはいかないしな。どうしようかな。あっ、そうだ」

エレクトーンのお姉さんがいたんです。分かります?エレクトーンのお姉さん。エレクトーンのお姉さんが、こうやって弾いてるんですね。
「あれしかない!」
と思ったんです、僕。あのお姉さんに伴奏してもらおう。
「君ね、悪いけど、じゃあ、彼女に聞いて来て下さい。「秋桜」を歌います。僕の歌うキーはCm(シーマイナー)です。Cmで「秋桜」の伴奏をお願いできるかどうか聞いて下さい」
そしたら、ピピピピッとまたゴキブリのようにいなくなった(笑)。

で、お姉さんにひそひそ話をしてる。お姉さんも、それに答えてる。驚いたね。驚きました、私は。エレクトーンのお姉さんは天才だ! あれを天才と言わずして、誰を天才と言うのか。いいですか、左手でコード弾きながら、段の違うところでメロディを弾きながら、左足でベースを踏みながら、右足でボリュームペダルを踏みながら、人と話をしてる(笑)。これを天才と言わずして、誰を天才と言うんですか。あたしゃ、絶対できません。ギター弾きながら、「秋桜」を唄いながら、人と話すなんて、絶対できないわけですね(笑)。これは、もうすごいなと思いましたね。

それで、お姉さん、余裕見せちゃって、左手でコード弾きながら、右手でメロディ弾きながら、左足でベースを踏みながら、ボリュームペダルを右足で踏みながら、僕に合図を送るんですよ、遠くから。かなり離れてたんですよ。お姉さんが自ら僕に合図を送るんです。(合図を送る真似、笑)雰囲気出てますねー、ほとんど白鳥のようなお辞儀。あー、できるんだなと思った。

で、やがて、そのきんと雲と猪八戒が戻ってきまして(笑)、へへ、失礼なこと言ってますね、来てたらどうしよう、今日。そりゃ、いいんですけど。

で、司会者がね、
「さて、ここで皆様に、とてもすてきなお知らせがございます。せっかく、さだまさしさんがいらしていて、歌が聴けないのは大変残念だと、私が思っておりましたら、先程」
そしたら、拍手する奴なんか出て来て、ワー、なんて。
「先程、私がご無理にお願い申しあげましたところ、快く(強調して)引き受けて下さいました。さだまさし様が」
いきなり「様」になるわけですね。上から読んでも「まさしさま」、下から読んでも「まさしさま」でございますね(笑)。

「さだまさし様が、特別に歌を聴かせて下さることに」
ワーッなんて、親類のおじさんが酔っ払っちゃって、ワーッなんて。さだまさしなんて聴いたこともなかったおじさんがですね、拍手なんかしたりなんかしまして。
「さだ様は、こういう所ではあまりお歌いにならないそうですが」
嘘をつけって、誰がそんなことを言ったんだ(笑)。

「さだ様、ひとつよろしくお願いいたします」
僕は出ていきまして、ひとつ決めの挨拶をいたしまして
「それでは、聴いていただこうと思います。「秋桜」。じゃあ、よろしくお願いします」
お姉さんが、
「ティリリリラララララララ、リラララララリラ、リラララリララララー」

イントロ弾くわけですけどね、いろんなこと発見しましたね。あのお姉さんはすごいね。左手で、クッ(笑)、コード弾きながら、右手でメロディ弾きながら、左足でベース踏みながら、ボリュームペダルを右足で踏みながら、眉毛を上げ下げしてるんですよ(笑)。すごいですね。
「ティリリリラララララララ、リラララララリラ」(笑)

よけいなことしなけりゃいいのにね、お姉さんも。お姉さんA型です、間違いなく。お姉さん、A型だから、すごい気を遣っちゃって、僕に。しなくてもいいことしますね、A型っていうのは。私がA型だから言うわけじゃありませんけどね。本当にそういうところあります。黙って弾いてりゃいいのに。私は絶句しましたよ。
「ティリリティラララリラララ、リラララリラララー、リラララリラリラリー」
「はいっ!」、だって(爆笑)。

あれ、一瞬息が止まるかと思いましたね。俺の歌だって、この歌は。僕が作ったんじゃないか、これ。出たい時には、自分で出るっていうんですけどね。心配だったんでしょうけどね。そりゃ、やっぱりお父さんはイントロ終わっても出てこないですからね。
「チャンツカチャンタラタンタン」(間、笑)

お父さん、ボーッと立って赤い顔して。お父さんに恥かかせないように、お姉さんが、こっそり合図送ったりなんかしてね。
「チャンツカチャンタラタンタン」(お姉さんがうなづく真似)
そうすると、お父さんも、(お父さんがうなづく真似、笑)挨拶してどうする、そんなとこで(笑)。だから、お姉さん、とうとう一番わかりやすい方法でございますね。
「ハイ!」

エレクトーン、「ハイ!」攻撃。これでございますね。かなりのものがありました。あれは忌まわしい出来事でした。お姉さん、後で怒ってましたけどね、
「せっかく「ハイ!」って言ってあげて、出てこなかったのは、さださんが初めてです」(爆笑)

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