名作劇場

このページでは虎キチ@愛媛お勧めのトークを集めてみました。抱腹絶倒のさだまさし劇場をお楽しみください。m(_ _)m

大好きな『水戸黄門』
   噺歌集Uより抜粋(’82.5.13. 八王子市民会館)

ギターっていい楽器ですよね。入口が広いからとっつきやすいですよね。でも実際に上手くなろうと思ったら、こんなに難しい楽器もないもんです。モーツァルトが昔、「ギターは小さなオーケストラである」といったそうですが、本当に上手い人が弾いてるギターっていいですよねえ。僕はギターが大好きなんです。

僕が一番最初にギターを手にしたのは、中学校の時、下宿先のお兄さんのギターを借りて弾いたのがはじめてだった。僕はヴァイオリンをやってた関係で、最初から案外、楽に弾けたんでねえ。だもんで嬉しくなって、ギターに夢中になったんです。おかげでヴァイオリンはやめちゃいましたけどね。

その頃、加山雄三ブームだったんです。もう私は加山雄三さんにシビレまくりましてね、ホラッ、よかったでしょッ。なにしろ自分で作った歌をうたってるってのがカッコよかったですよね、憧れましたよ。
♪ふたりをぉ〜夕闇がァ〜 つつむゥ〜この窓辺にィ〜(拍手)
ハァ、よかったねえ、あの頃は。

もう、若大将シリーズ、全部見ましたよ。『海の若大将』『大学の若大将』『日本一の若大将』『エレキの若大将』、沢山ありました。『ニュージーランドの若大将』『南太平洋の若大将』『アルプスの若大将』『フレッシュマン若大将』、いろいろあってね、全部見たよッ、私(笑)。あの頃は私、加山雄三さんなしでは夜も日もあけないっていう時代だったわけですよ。「加山雄三」って大きく書いた下駄をはいてたもんね、私(笑)。

 

♪風にふるえるゥ〜 緑の草原〜 たどる瞳〜、輝く、若き旅人よォ〜(拍手)
一連のこういう曲に触発されて、自分でギター弾きはじめて、歌いはじめて、もうあれから何年たってしまったんだろう。あの頃、十三歳だったからねえ、もう早くも五年もたってしまったわけです(笑)。ハハハッ、うるさいなッ、いいじゃないかッ。

加山雄三さんッ、揺さぶられたものねえ、心が。映画見に行くのが楽しみでね、小遣いなかったけど。全部同じ映画だったけどね。加山雄三さんが出てきて、星由里子さんが出てくると全部筋が見えるっていう、ワンパターンの映画だったけどね、ワンパターンというのは大事なんであります。裏切りませんから。僕は好きだなあ。日本三大ワンパターン映画っていうのは、『若大将シリーズ』『柴又の寅さんシリーズ』それに『水戸黄門』(笑)。

私は『水戸黄門』が好きでねえ、大好きなんです。熱狂的なファンなんです、私は。何がいいかって、『水戸黄門』は我々を裏切りませんよ。今度、ご覧になってみてください。夕方再放映なんかしてますから。視聴者をあんなに裏切らないドラマはないッ。今度見る時、ためしに、「ああ、こうなんないかなあ」と思って見てください。なりますッ(笑)。これはもうね、絶対になります。もうあのくらい気持ちよく思った通りになってくれるとね、感謝状を送りたくなるくらいです(笑)。

農夫の背中をいきなりパッと映します。「うん? 農夫の背中がいきなり映る。これは何か理由があるはずだ。ただの農夫じゃねェなッ。ああ、さてはこの農夫は代官の秘密を知ってるんではないだろうかッ」、知ってるんです(笑)、ねえ。「おッ、そうすると、この農夫のいのちが危ないんではないだろうかッ」、襲われるんです。代官の手下に切られるんです。「可哀想にッ。このまんまだと水戸黄門のところへ話がいかないッ。どうしよう。うんッ。この農夫に一人娘かなんかいるんじゃないだろうかッ」、いるんです。で、この娘が、可愛い女優、色っぽい女優を使う場合がある。色っぽい女優を使うには、それなりの何か理由があると考えるのが我々のつとめです。「色っぽいッ。こんなに色っぽいとは、さては代官がこの娘にイヤらしいことをするんではないだろうかッ」、するんです(笑)。

まあしかし、あの代官、私はあの『水戸黄門』の代官が好きなんです。なんでかっていうと、最近テレビを見ていても、どれが善人でどれが悪人だかはっきりしないでしょッ。善人面した悪人、悪人面した善人。『水戸黄門』の悪代官だけは、悪人面した悪人ッ。笑い方が違う。いま、アニメ漫画映画以外で、ああいう笑い方をしてくれる悪役はいなくなった。もう憎々しげに笑うんですよ。「ムフフフハハハハッ」(笑)。で、必ず代官が最初に登場するのは、何とかの廻船問屋の奥座敷に頭巾をかぶって出てくるという、あのユニフォームが私は好きですね(笑)。

で、農夫の娘をね、手籠めにしようとするんですね。もう、脂ぎったイヤらしさを出しましてですね。(いやらしいいい方で)「ムフフフフフッ、もっとこっちへこいッ」とか(笑、拍手)、やるわけですよ。すると娘が(女の声で)「お、お許しくださいまし」なんかいって逃げるわけ。そうすっとね、代官が「ムフフフフフッ、わしのいうことを聞けばァ、おまえの親父を助けてやらないでもない」。ウワァーッ、憎たらしいッ。見ててもう、ムカムカしてくるのね。飲んでるコーラーの瓶を投げつけてやりたくなります(笑)。

我々視聴者はじっとそれに耐えるんです。「いいや、このまんまイヤらしいシーンに発展するドラマではないはずだ。夕方の四時に放映してるんだからイヤらしくなるはずがないッ。誰か助けに来るはずだ。そうだッ! 弥七出るッ!」(笑、拍手)、で弥七がクーンって出てくる。どうでもいいけど、あの弥七という役はいい役だねえ、あれッ。もう、カッコいい所へしか出てこない。冷静に考えてみると、風車があんなに真横に飛ぶわけはないんですけどね。いいんだッ、弥七がねえ。

そのうちに印籠出すでしょッ。あのォ皆さん、印籠出すとこから見る人がいるでしょッ。あれは邪道ですから、そういう見方はやめてください。あれは最初っから耐えるんです、四五分間ぐらい。農夫と共に耐えるんです。あのドラマは公務員がよく見るんだそうですが、あのカタルシスがたまんないんでしょうね、あの印籠出す時がね。「エーイッ、ザマミザマミロ」ってテレビに胸張ったりしてね。あの一瞬に胸がスーッとする気持ち、よくわかります。ところが、時々さァ、印籠出さないで終わる時があるのね。あれ、頭に来るよォ(笑)。「俺がいままで耐えた四五分間は、いったい何だったんだッ。俺の四五分を返せッ」みたいなね。頭へ来ますよねえ。

で、印籠ってのは、助さんか格さんが出しますわね。皆「ヘヘェー」っていうでしょッ。あれ、クサイねッ。「控えおろうッ」っていうと「ハハーッ」って頭を地面につける。あれは私は嘘だと思う。なぜならば、あれは徳川の登録商標でしょッ。あの印籠の徳川マークを見て、あっ、あれは徳川のえらい人しか持てない印籠だって、見た人がどれくらいいると思う? 冷静に考えて欲しいッ。あの時代にですよ。江戸時代のはじめ、交通もあんまりなかった、通信もなかった。そんな時代にですよ、田舎の侍たちが、代官もですわね、どうして三葉マークが徳川だって、一見してわかるんですか。そのマークがわかるような人がいたら、そういう人は水戸黄門の顔だって知ってるはずじゃない?(笑) それをさっきまでバカにしてんです、「エーイッ、クソじじいッ」とかいっててね。それを急にね、「ヘヘヘッ」とか、ヘを三回もいうのよッ(笑)。

もう、腹が立つったらありませんよ。で、私はあの嘘を是正するために、時折知らない人を出すといいと思う。印籠を知らない代官を出す。そうすっと、『水戸黄門』のワンパターン性が打破されるわけです(笑)。
「控えおろうッ、この印籠が目に入らぬかッ」
「目に入らぬわッ、バカッ」
なんて格さんひっぱたかれたりしてね(笑)。で、格さんがすごい目が点になって、
「エーッ? あのォ...、これ...うそォ!(笑) これッ、知らない?」
「知らないッ」
「あらーッ、じゃあ、これどうォ?」
って水戸納豆出すとかね(笑)。

しかし、僕はどこがいいかっていうと、印籠じゃないんです。あれは確かに気持ちがいいですけれどもね、「強きをくじき、弱きを助く」っていうけど、あれ見てりゃあ、水戸黄門が一番強いんだよね、結局。だから本当に強きをくじいてんのかどうか。なにしろ、一番気持ちが終わり方です。ドラマの中でどんなに嵐がこようと雨が降ろうと風が吹こうと、最後のシーンは必ず晴れています。皆で田んぼのあぜ道を去っていくでしょッ。私はあれが好きなんです(拍手)。
♪人生、楽ありゃ苦もあるさ

何だかよくわかんないお新さんという女の人ね、何でついてんのかわかんないんですけど、最後にはいつもくっついてるんです。で、からかわれたりして、
「いやァねェ、ご隠居ォ」
なんていってね、水戸黄門が、
「カッカッカッカッカッ」(笑)
って笑ってね。あれがいいんです、あれがね。で、芥川隆行さんがスーッと出てきて、「光圀の心は晴れていた」って。いい加減にしろってんだよね(笑)。ほんとに、それくらい、ギターって好きなんです(爆笑)

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